「風の中のマリア」は日テレ系番組「世界一受けたい授業」で「永遠の0」「海賊と呼ばれた男」と同列に紹介された作品である。
芸能人たちも絶賛するこの本に、なんと人間は登場しない。
オオスズメバチの一生を描いた作品なのである。
オオスズメバチに興味をもち、オオスズメバチの生態を是非知りたいと思う人間は果たしてどれくらいいるのだろうか。
そんなの大学かどこかで昆虫の研究をしている人くらいだろう。大半の人は全く興味がないと思う。
もちろん私もオオスズメバチに思いを馳せたことなんて、30年近く生きてきた中で一度もない。
しかし、「風の中のマリア」はそんな人間すら引きつけてしまう魅力あふれる作品である。
魅力1 命をかけ狩りをするワーカー、マリアがかっこいい
タイトルにもある「マリア」がこの話の主役だ。
オオスズメバチのワーカーは羽化してからわずか30日しか生きない。
しかし、ワーカーには次世代を担う幼虫の餌を狩るという重大な役割がある。そのため毎日が命がけの戦いだ。
マリアも自分の役割を全うするため、他のワーカー同様に死の覚悟で戦う。
速さに定評のあるマリアは「疾風のマリア」とも呼ばれ、気高い魂で敵を容赦なく殺す。
マリアの使命感と幼虫や他のワーカーに対する姉妹愛、大きな敵にも果敢に挑む戦いぶりに私は魅了された。
人間にとって30日はとても短い。しかし、マリアたちの30日は濃密だ。
「もっと生きたい」「命が惜しい」という考えに及ぶことは決してなく、1日1日を魂を燃やしながら過ごしている。そして、迫りくる王国の変化。
その変化にも正面からぶつかっていく。マリアはかっこいい。いや、オオスズメバチはかっこいい。
魅力2 オオスズメバチ始め、虫たちの生態がよくわかる
「風の中のマリア」には、生物の教科書並みに細かくオオスズメバチなどの生態が説明されている。
30日の命の話からゲノムの話まで。虫たちが説明する形なので少し不思議な気持ちにはなるが、だからこそ物語の世界に入りやすい。
なぜ女王バチの寿命が長いのか。なぜワーカーにはメスしかいないのか。なぜ、ワーカーはメスなのに子どもを産まないのか。
そんなオオスズメバチに関する疑問もこの本で解決できる。
また、トンボやアリなどの生態にも触れられていてとても興味深かった。
ストーリー自体が面白い上に知識も増える。とても充実した1冊だ。
「風の中のマリア」は魅力的な1冊だ。
ハチなんて興味ない…という人も必ず楽しめると思う。新しい世界に目を向けたい人に特におすすめである。
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