この本は、私が人生で一番最初に読んだ辻村さんの本だ。
500ページ以上ある長い本で、最初は「こんな分厚いもの読めるかな」と不安だったが、それは杞憂に終わった。
長い本なのに、言葉の1つ1つが私の心に染み渡っていく。
特殊能力などがあるわけじゃない。少し変わった境遇にある高校生の、だけども普通の日常。
その日常に異様に感情移入してしまうのは、辻村さんの「人の心を描く技術」の賜物だろう。
この物語の主人公は高校生の芦沢理帆子。
芦沢理帆子は数年前に失踪した写真家、芦沢光を父にもつ。父とドラえもんが大好きな、賢い少女だ。
そう、この話のキーパーソン(?)は間違えなくドラえもんだ。
日常に当たり前のようにドラえもんの道具が登場し、ドラえもんはいつだって生きていくためのヒントをくれる。
「ドラえもんなんて幼稚だ」と大人は言うかもしれないが、誰もが一度はドラえもんの恩恵を受けている。
私自身も、人を思う心や身近な恋愛、自然を大切にする精神など、小さいころ無意識のうちにドラえもんに教わってきたのだろう。
「凍りのくじら」はかつて子どもだった大人なら、間違いなく楽しめると思う。
この本のもう一つの魅力は、主人公の理帆子
理帆子は日常を達観し、身の回りの人を本の登場人物かのように俯瞰的な見方をする、とても冷めた個性の持ち主だ。
共感できない読者も多いだろう。しかし、実は違う。
人に興味があるくせに冷めているふりをし、人とつながっていたいくせに、一人で平気のような顔をする。
現代に生きる私たちには、誰でも多かれ少なかれそんな面があると思う。みんな、寂しくて寂しくて仕方がない。誰でもいいからそばにいてほしい。それが自分のステータスにもなる。
しかし、実はそうではない。自分が本当に誰かを必要とすること。自分が特定の誰かと繋がりたいと認め、自分から歩み寄ること。
それが一番大切なのではないかと、理帆子は訴えている。理帆子は誰よりも人間味に溢れている。
だからこそ、魅力的なのだ。 私はこの本を読み終わった後、この本を友人に勧め、上司に勧め、旦那に勧め…いろんな人に勧めできたが、まだ足りない。
もっともっと多くの人に読んでほしい。世界観を壊さないなら、実写化してほしい。私が大切に、繰り返し繰り返し読んでいる本の1つだ。
コメント
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