この作品は辻村深月のデビュー作である。
第31回メフィスト賞を受賞した。
上下巻合わせて1100ページ以上となかなかボリュームがあるが、あっというまに読めた。
分量があるにも関わらず、1つ1つの文字を丁寧に追いたいと思える小説はなかなかない。
これは、そういう作品だった。
冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫) 冷たい校舎の時は止まる(下) (講談社文庫)
あらすじ
ある雪の日、8人の高校生はなぜか学校に閉じ込められてしまった。
学校には8人だけ。ドアは開かず、外部との連絡手段はない。彼らの前に、奇妙な現象が次々と起こる。
何者かに記憶を操作されたのか、2ヶ月前の学園祭の最中に自殺した同級生の顔と名前が思い出せない。
そんな中で生徒が次々と姿を消す。彼らは元の世界に帰ることができるのか?
8人それぞれが胸に抱えている「闇」を細かく描いている
なぜこの話が大長編なのか?それは、人物描写がとても細かいからだ。
8人それぞれが胸に秘めている闇が細かく描かれていて、共感できてしまう。
きっと、みんなそうなのだ。どんなに悩みがなさそうな人にも何かが秘められていて、物語にするとなかなか劇的だと思う。
その何かを「闇」と表現するのは少し大げさかもしれないが、多かれ少なかれ誰もが抱えているものなのだ。
辻村さんはそれを見事に描ききっている。
人物を描くのが上手だと改めて感心してしまう。
そして、8人の個性を描き分ける想像力が巧みだ。
ちなみに私が最も共感したのは充だ。
責任のない優しさ。明るい絶望。充は「優しい」という個性を「無責任」と捉え、誰かを傷つけることに恐怖を抱いている。
かといって自己嫌悪しているわけでもなく、いつでも達観している。
その気持ち、わかると思った。私も人を傷つけるのが怖くて、自分の発言で誰かが道を踏み外してしまうことに恐怖感を抱いている。
自分に責任のないところで、常に人に優しくしていたい。
私と充は同じではないものの、私の中に充の要素が、そして他の登場人物の要素が少しずつ混ざり合っている。
辻村流のだましのトリックが見事
詳しくは書けないが、下巻後半の「解決編」で今までの謎が全て解明される。
そこで、私たちが知らず知らずのうちに文脈を補い、解釈していたことが勘違いだったと知る。
「こうであるに違いない」という私たちの先入観を利用しているのだ。
1回目は騙されて、2回目からは真相を知った上で読む。2回以上楽しめる作品だ。
最後に
辻村深月さんの作品は、世界同士が繋がっていることが多い。
だから、新しく辻村さんを読もうと思っている人は、このデビュー作からがおすすめである。
また、「ロードムービー」は「冷たい校舎の時は止まる」の続きの話である。それも合わせて読むと、2倍楽しめると思う。
冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫) 冷たい校舎の時は止まる(下) (講談社文庫)
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